当院では、2019年から飲酒に関して問題を感じている方、お酒を減らしたり、お酒との付き合いを見直したい方に「減酒治療」を始めました。
従来のアルコール治療はお酒をやめること(断酒)に重点が置かれてきました。しかし、近年すぐに飲酒をやめることができない場合は、飲酒量を減らすことからはじめ、飲酒による害をできるだけ減らす「ハームリダクション」という概念が広まりつつあります。これにより断酒を含めた治療への抵抗感が強いアルコール依存症の治療の敷居を下げることで、より多くの方が飲酒問題に早期に気づくきっかけとなり、結果として病気の深刻化を防ぐことも期待されています。
当院の外来では「お酒の量を減らす」ことや「問題のない飲み方をする」ことも含めた、受診した方それぞれの多様なゴール設定に合わせたお酒とのお付き合いをサポートする治療を目標とします。「お酒の習慣は気になっているけど、病院に相談に行ったら『お酒をやめなさい』と責められるのではないか?」 その心配はいりません。
健康診断などで肝機能の数値が高いという結果が出たら、日頃の飲酒習慣を見直すべきサインです。多量飲酒をそのまま続けると、肝障害・肝硬変・肝細胞癌など、命に関わる重大な健康障害につながる恐れがあります。また、アルコールによる肝機能の数値異常と思われても、精密検査で他の肝臓疾患が発見されることもあります。念のため各種肝疾患の有無を調べたのちに減酒治療を開始します。
セリンクロは(2019年3月に新しく発売された)飲酒の1~2時間前に服用することで、飲酒量を低減するアルコール依存症治療薬です。断酒補助剤は既に治療に使用されていますが、飲酒量低減の治療薬は国内では初めてのものです。セリンクロは、飲酒欲求を抑えることで飲酒量を低減する効果が期待できます。減酒そのものを目的とした治療、断酒の前段階として飲酒量を減らす治療にも使用することができるお薬です。
これらの治療が難しい場合や、断酒が最善と考えられる病態の場合には専門医療機関への連携もご提案します。
アルコール依存症患者さん本人が、病気を自覚して積極的に治療をはじめるケースは少ないのが現状です。多くの場合、家族や友人が異常に気が付くことも受診のきっかけになりますので、ご相談ください。